顔の⾒えるものづくり。〝メイドイン⾜⽴〟を⽬指して
同年代&異業種の仲間たち
お⼆⼈は⾜⽴ブランドの若⼿経営者で構成される「あだちブランドYouth(ユース)」に加⼊されています。その経緯を教えてください。
⼩川:以前、⾜⽴区主催の展⽰会やワークショップに何回か出展させてもらったことがありました。そのときはまだ⾜⽴ブランドに挑戦する予定もなかったんですけど、そこにいたユースの⽅たちがすごくイキイキとしていて。話をさせてもらったり、活躍を⾒ているうちに、仲間に⼊りたいなあと思ったんです。そこから⾜⽴ブランドに挑戦し、参加することになりました。
菅⾕:僕は⾜⽴ブランドに⼊って1年ちょっとで、加⼊と同時にユースに参加しました。製造業 をやっていると若い⼈と出会う機会があまりなくて周りにいるのは親⽗と同じくらいの年代の⼈ばかりで肩⾝の狭い思いをしてた(笑)。そんなとき同世代の集まりがあると聞いて⾏ったみたら、割とすんなりとなじめたというか……。
⼩川:みんな⼆世や三世ということもあって、業種は違うのに抱えている悩みが似ていたりするから話も合うんですよね。そもそも菅⾕君は家業を継いだのは必然的な流れ?
菅⾕:継ぐ気は全然なかったですね。以前はアパレルの販売員でした。でもあるお店で働いていたとき洋服がぞんざいに扱われるのを⾒て……⼩さい頃から作る背景を⾒てきたからか、さすがに胸が痛みました。転職を考えたときにふと⾃分の価値って何だろうって思ったんです。替えがきくというか、他⼈に取って代われるポジションじゃなく、⾃分にしかできないことは何だろうと。そのとき実家の仕事がやりたい、と戻ってきたんです。
⼩川:僕はもう⼩学⽣の作⽂に「畳屋になる」と書いてた。畳屋はだいたい1階が仕事場で、2階が⽣活空間だから、いつも作業⾵景を⾒ていたし、畳を収めに⾏くときについていくと親⽗がお⾦をもらって、なおかつお客さんから本当に感謝されていて。僕もお駄賃もらえたし(笑)。そういう姿を⾒ていたから、畳屋をやることに迷いはなかったな。
ユースならではの新しい挑戦
家業を受け継ぐなか、ご⾃⾝が始めた新しい取り組みはありますか?
菅⾕:僕は⾃社ブランドを⽴ち上げました。うちはもともと縫製⼯場。主に百貨店に⼊っているような婦⼈服メーカーの縫製をしてきましたが、今後は加⼯だけでなく、企画や販売もやりたいと。とくにコロナで百貨店さんが休業になったこともあって、これからは依頼を受ける仕事だけでなく、ほかにもなにか武器が欲しいと思ったんで す。
⼩川:新しいことをやろうするとき、先代とぶつかったりはしないの?
菅⾕:しますよ。だから内緒でやっちゃう。形になってから話すので、完全に事後報告です(笑)
⼩川:え! そうなの(笑)⁉
菅⾕:当然、新しいことをするにはリスクも伴うので失敗したらどうするんだって⾔われたり、反対されたりもするけど、結果を出せば認めてくれるということも分かったので(笑)。ときには失敗もするけど、今のところ五分五分です。⼩川さんだって、いろいろされていますよね。
⼩川:僕らの上の世代は説明をしなくても、畳の材料であるい草の畳表や畳縁のことをある程度知っているけど、下の世代は「これ、なに?」って⼈も増えてきた。伝えなければと思って畳の素材を使ってグッズを作る「tatamiglam」というブランドを⽴ち上げたんだよね。畳縁を使ったポケットチーフや蝶ネクタイ、天然のい草のクラッチバ ックも作ったり。畳を別のフィールドにのせることで若い⼈にも知ってもらおうと。
知られていないことはチャンスでもある
⼩川:意外と驚いたのが、同じ場所で50年も畳屋をやっているのに、うちが畳屋であることを知らないご近所さんが結構いること。でも知られていないってことはある意味、広げるチャンス。SNSや地域のイベントで情報発信をするだとか、こちらから積極的に動かないといけないよね。
菅⾕:そうですよね。この前、ご近所さんに知ってもらうためのエントリーモデルとして、⾃社ブランドのマスクを販売したんです。それも⼯房の⼊り⼝にガチャポンを置いて。いわゆるガチャガチャですね。レバーを回すとカプセルに⼊ったマスクが出てくるようにしたんです。そうしたら近所の⼦どもが楽しそうに買ってくれました。それがきっかけで近所の⽅にうちを知ってもらえたり、珍しいからと宣伝してもらえたりして。
⼩川:いいね、それ。ちなみにガチャポンの話、ユースの集まりでもしてたよね。こんなこと考えているけど、どう思います?って。
菅⾕:ガチャポンを使うなんて⾔ったら反対されることもあるのに、ユースの⼈たちはそれを⾯⽩がってくれるんですよね。
⼩川:同業者だけが集まると慣習や前例といったことから離れるのが難しいけど、笑われるかもしれないことでも柔軟に真⾯⽬に話し合えるのがユースのいいところ。⾜⽴ブランドに⼊る気はなかったって⾔ったけど、もし⼊ってなかったら、今頃、俺の頭はガチガチだったかもしれない (笑)
⾷品のように、作り⼿が⾒えること
時代が変わり、ものづくりの形も変わりつつあります。未来を担うユースのお⼆⼈が、ものづくりのこれからに対して思うことは?
菅⾕:服飾業界は飽和状態にあると思うんです。 みんなが流⾏を追い、似たような服ばかりが出まわり、ネットで何でも⼿に⼊る。それはもうつまらないかなと。たとえば⾷品は「⽇本産」とか、 もっといえば「⿂沼産」「○○さんが作った⽶」 と⾔うじゃないですか。同じように洋服も「メイドイン東京」「メイドイン⾜⽴」「メイドインマ ーヤ」でもいい。誰がつくったのか、顔が⾒えるようなものづくりをすればもっと価値は⾼まるし、⾯⽩いんじゃないかと思います。
⼩川:確かにね。やっぱり⾃分から買ってほしい、⾃分を選んでほしいと思うんです。他で買うほうが安いかもしれないけど「⼩川さんのところで畳を買いたい」「⼩川さんなら安⼼」と思ってもらえるようにしていきたい。そのためには僕を選んでもらう取り組みをしないといけない。
菅⾕:今は、ものを⾒て選ぶことはもちろんだけど、作り⼿がどんな⾏動をしているのか、どんな⼈柄なのかといったことも、ものを選ぶ基準の⼀ つになっている気がします。
⼩川:だからこそ余計に、顔の⾒えるものづくりに意味があるし、顔が⾒えるような伝え⽅をしていくことが⼤切だよね。
文 葛山あかね
編集協力 吉満明子(センジュ出版)
撮影 金子由