「足立ブランド」が持つ高い技術力を、どのように生かし、プロダクトやサービスとして世の中に展開していくか。この課題と向き合うための交流会が、2022年12月7日に〈足立区生涯学習センター研修室〉にて開催された。
当日は「足立ブランド」から様々な分野の事業者20社が参加。ゲストとして招かれたのは、全国の100社を超える町工場を束ねる「町工場プロダクツ」だ。彼らが柱としているのは、町工場を活性化するための、自社製品の開発。素材や工法を問わず、ものづくりに携わる人々が参加し、自社製品を携えて共同でギフトショーに出展するなど、支え合い、高め合うコミュニティの成功例として注目を集めている。
この「町工場プロダクツ」と、運営母体である合同会社メイカーズリンクの発起人として事業者を率いているのが、埼玉県川口市で精密機械などの金属加工を行う〈栗原精機〉の代表、栗原稔さん。交流会の前半では、Twitter上で“おやっさん”の愛称でも親しまれている栗原さんの講演で、和やかな雰囲気のなか、「町工場プロダクツ」発足のきっかけや、活動の内容などが紹介された。
「町工場プロダクツ」はSNSから始まった。
〈栗原精機〉は、1968年に栗原さんの父親が創業。2019年より、シューズメーカー〈リーガルコーポレーション〉での経験を経て長男の匠さんが入社し、現在で三代目となる。長年、請負業務を主としてきた〈栗原精機〉だが、近年になって、金属加工の技術を生かした文房具やアウトドア製品などの自社ブランドや、共同開発製品を展開。そもそものきっかけは、クリス・アンダーソンの著書『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』との出会いだったという。
「いまはインターネットや制作ツールの進化によって、誰もが工業生産の手段を手に入れることができる時代。すると、これまで大手企業にしかできなかったものが、個人でもつくれるようになる。そうした状況のなかで町工場としても、それまで置かれていたものづくりから、新しいものづくりにシフトしていく必要があるのではないかと考えました」(栗原稔さん)
そこで、栗原さんが思い立ったのが、SNSでものづくりのコミュニティを作ること。2013年、Facebook上のグループとしてスタートしたのが「ものづくりコミュニティ・MAKERS LINK」であり、このコミュニティから派生して事業化したのが、2021年に正式に命名し、本格的な活動としてスタートした「町工場プロダクツ」である。
技術を生かした自社製品を、世の中との接点に。
成功のカギとなったのは、コミュニティとしてのつながりに加え、「町工場プロダクツ」に参加する町工場のほとんどが、自社製品を持っていることだ。技術を生かした製品を作ることで、下請けの仕事では公開できなかったり、伝わりにくかったりする技術を、世の中にプレゼンテーションすることが可能になる。
「町工場プロダクツ」では、それぞれが自社商品を作って自主的に活動することを基本に、さらにコミュニティを通じて、それらの製品を年2回のギフトショーやイベントなどに共同出展し、販売することで、個人や企業とのつながりの機会を増やしている。
「最初に参加した2020年のギフトショーは5企業で参加して、〈栗原精機〉の商品も小型のテープカッター1点からスタートしましたが、回を重ね、いまでは25社近くの出展があり、我社の商品も随分増えました。自社製品を作って“町工場プロダクツ”として発表していくことで、様々な人の目に触れる機会が増え、それを見た企業からの発注があるなど、広がりを実感しています」
キーワードは“GIVE and GIVE”。コミュニティを通じてつながる人々が、情報や絆、経験値などの無形の資産を共有することが、売上向上の原理にもつながっていく。ほかに与えることを惜しむことなく共有することが、それぞれのものづくりを拡大していくことになるのだ。
「これまで技術力や加工精度をPRしてきましたが、それよりも製品自体の良さを伝えていくことの方が、意味があるのではないかと思っています。そのための自社製品であり、それを発信する手段として、SNSやコミュニティを使っていくことは重要なのではないかと考えています」
自社製品が効果的な宣伝ツールになる。
交流会の後半は2つのグループに別れて、実際の商品を前にしながら、より深く「町工場プロダクツ」の活動に触れる、実践的な意見交換が行われた。グループAでは、栗原さんと〈栗原精機〉の自社製品に関わるデザイナーとともに、コミュニティとしての「町工場プロダクツ」を考える。一方のグループBでは、「町工場プロダクツ」から4社のゲストが参加して、それぞれが商品を紹介しながら、自社製品の開発経緯などをプレゼンテーションした。
グループBには、神奈川県横浜市の金型製造会社〈大高製作所〉、群馬県みどり市の旋盤加工業〈コバ〉、東京都千代田区の金属加工部品商社〈シマワ〉、埼玉県八潮市で照明機器などを手掛ける〈YSM〉が参加。それぞれが開発した自社製品を「足立ブランド」の参加者が手に取り、新規商品開発までの道のりや技術的側面について、活発な意見交換が行われた。
「専門としている技術を何にどのように生かせるか、自社製品を持つことでやりようによっては伸びると思う」とは、〈コバ〉の小林巧弥さん。〈YSM〉の八島哲也さんも「自社製品がいい宣伝ツールになっている」という。実際、自社製品が入口となり、下請けの仕事も広がった。また、〈大高製作所〉の大高晃洋さんは、「自社製品のデザインや用途を少し変えた商品を発注されることも多くなった」と話す。〈シマワ〉の島口棟吾さんは、「月に何千個も売れるような商品ではないが、だからこそ、会社の価値を高めてくれる店を選んで商品を扱ってもらうようにしている」という。
それぞれの保つ技術を、どんなふうに自社製品に落とし込めるか。どのようなところから商品を発想するか、誰をターゲットにするか、デザインはどうするかなど、具体的な質問が飛び交った。
「町工場プロダクツ」との交流会は、町工場が互いに刺激し合い、勉強し合うことで、できることは多くあると感じられるものだった。これからの「足立ブランド」におけるものづくりの可能性、その広がりや発展を垣間見るような時間だった。