大手百貨店の婦人用帽子を製造する(株)飯塚商店。数年前には年間を通して百貨店の主力店舗で帽子売場の売上トップになるなど、その実力は折り紙つきです。飯塚尚哉社長と由美子夫人にお話を伺いました。
ー 社長は二代目だとお聞きしています。御社の沿革についてお教えください。
社長:父が1950年代に墨田区で兄弟と創業し、その後独立したとのことです。父はずっとベビー用帽子専業でしたが、出生率低下の影響で百貨店店舗がベビー帽子の展示を縮小するなど先行き不安な傾向が出てきたため、将来を見越して、徐々に婦人用帽子に切り替えていきました。
ー ご自身のご経歴は?
社長:私は、1967年の生まれで、専門学校を出たあと、貴金属関連や飲料関連の会社で営業をやり、1995年に入社しました。15年ほど前に先代が倒れたため、以後は私が引き継いでやっています。婦人用帽子専業になったのもそのころからです。
ー 奥様は、いつごろからご主人のお仕事を手伝われるようになったんですか?
由美子夫人:1998年に結婚して、以後飾りの内職などをやっていたんですが、それまで主人の仕事をお手伝いしていた義母(先代夫人)が倒れたため、やむにやまれぬ形で始めました。2015年ころからです。細かいものを作ったりするのは好きなんですが、洋裁は苦手で、とくにミシンがけは嫌い。「帽子作りなんて絶対にできない」と思っていました。だから最初のうちは大変で、職人さんから手取り足取り教えてもらいました。
ー 今では、ご主人と二人三脚で帽子作りに専心されているように見えますが。
由美子夫人:実は、それまで自分で帽子をかぶることがほとんどなく、あまり関心もなかったんです。帽子作りを手がけるようになり、かぶり方を学んだりするうちに、だんだん楽しくなってきて。自分でかぶるようになって、うちの帽子の本当の良さがわかるようになりました。私は髪が柔らかいのですが、うちの帽子だとかぶった跡が残らない。「かぶっても痛くないし、跡も残らない」ということ、つまりその人にぴったり合う帽子なんです。「脱ぎづらい」「頭が痛くなる」「かぶった跡が残る」などという理由で帽子を嫌う方が多くいます。そうした方にこそ、うちの帽子を体験して欲しい。帽子嫌いの方の多くが帽子好きになるのではないかと思います。
ー 大手百貨店から好評を得ているのもそのあたりにあるのですか?
社長:「仕上げがきれい」「細かいところが行き届いている」と評価してくださる方もいらっしゃいます。大手メーカーは、仕上げを機械でやるようですが、うちは手作業でやります。企画から生地の選択・裁断・縫製・仕上げまで一貫製造しており、各工程に細やかな気配りができることもうちの強みだといえます。小さな会社なんですが、外部の職人さんの手も借りて、毎月600個以上生産しています。
たとえば、夏は麻の商品が定番なのですが、「麻は洗うと型くずれする」という理由で嫌がる方もいます。ですが、うちの麻の帽子は手洗いできるんです。生地の素材の上に芯を貼っているため伸び縮みが抑えられ、型くずれしなくなる。ひとつひとつの帽子にこうした細かな工夫を施しています。
ー 百貨店の仕事は順調のようですね。
社長:ただし、今の状態に甘んじてばかりはいられないと思っています。百貨店さんに依存するばかりではなく、自社製品を自社の商品として販売し、利益をあげられるようにしていきたいんです。帽子屋として自分のやりたいことをやりたい気持ちもありますし。
ー 2017年12月にオープンしたショップ「帽子屋N&Y」は、その取り組みの一環なんですね。
由美子夫人:足立ブランド認定がきっかけで区役所のショーケースにうちの帽子を展示してもらえるようになったりして、オーダーのお問い合わせが増えました。オーダーのお客様には、作業場に来ていただくのですが、そうすると一部の商品しか見ていただけないし、段ボールなどが積まれていたりしてちょっと殺風景です。そこでお客様をご案内する場所が別に必要だと感じました。
社長:自宅の1階が駐車場だったんで、そこをショールームにしようということになりました。駐車場とはいえ、もともと屋根や壁はあったので、改装費をある程度抑えることができたんです。
ー 前面道路の街路樹が美しく、落ち着いた雰囲気のおしゃれなお店ですね。オープンして1年が経過しましたが、どうですか?
由美子夫人:大きな通りから一本入った場所なので、ちょっと目立ちづらいかな。でも、大通りからたまたま通りすがりで立ち寄られる方もいらっしゃいます。また、周辺の住民の方や足立ブランド認定で知った方などが訪れてくださいます。うちの帽子をかぶってくださっている方を近所で見かけると、本当にうれしくありがたく感じます。口コミなどで徐々に広がりつつあるようですが、このお店の存在をもっとPRしていきたいと考えています。
ー 「自分に合った帽子」の潜在的なニーズは多いようですね。
由美子夫人:面白いことに、この店に初めて来られる方の半分が「帽子が嫌い。自分には似合わない」とおっしゃるんです。でも、うちの帽子を体験されたお客様の多くは、「よそで買った帽子はしっくりしない」とリピーターになってくださいます。試着が似合わない場合、私ははっきりそう言うのですが、「はっきり言われた方がうれしい。そこがこの店のいいところ」と言ってくださる方もいます。
ー お店では、婦人用だけでなくさまざまな帽子が陳列されていますね。
由美子夫人:以前から医療ケア用、ペット用などさまざまな帽子を作っています。また、「男性向けは?」とお問い合わせがあったのをきっかけに、紳士用帽子にも取り組むようになりました。
病気の方や高齢者の方でも外出はするし、おしゃれはしたい。高齢者の方が自転車で転倒した際、帽子をかぶっていたために大事に至らずにすんだという話も聞いたことがあります。また、近年の夏の日差しは強烈なので、この点でも帽子の重要性は増しており、自分に合った帽子のニーズはますます増えてくるのではないでしょうか。お客様個々のニーズが集まり、それに応えていく。このお店を、そんな場にしていきたいですね。
ー 店舗オープンの効果が徐々に現れて来ているようですね。
由美子夫人:もっと知名度を上げたいので、展示会などにはできるだけ出展していきたいです。また、今後は、このお店で試着会や帽子作りの教室の開催も計画しています。できるだけ多くの帽子嫌いの方を帽子好きに変えていきたいですね。
社長:オーダーをいただいた帽子については、納得していただけるようにお客様と相談しながら工夫して作っていきます。お客様に合った帽子作りには自信がありますので、どうぞ一度お試し下さい。