ユニークなメーカーの成功の裏側とは? 「江東ブランド」のものづくりの現場を訪ねて。

足立ブランド×江東ブランド

地元産業の素晴らしさを発信しようと「足立ブランド」と志を同じくする、江東区の「江東ブランド」。優れた技術とものづくりを継承し、発展させようとしている企業を認定。認定企業は現在52社となり、“近くて、早くて、何でもできる”をモットーに、下町の愉快なものづくりを紹介している。

2023年1月17日に行われたのは、この「江東ブランド」と「足立ブランド」との交流会。同じ目標を持つブランド同士が地域をまたいでやり取りすることで、横のつながりを強化し、コラボレーションの可能性を模索したり、課題を共有したりすることが目的だ。

交流会当日「足立ブランド」参加13社は3チームにわかれ、「江東ブランド」認定企業の工場やショールームを訪ねて、そのものづくりを知ることからスタートした。受け入れてくれたのは、台車メーカーの〈花岡車輌〉、木材加工の〈北三〉、紙加工の〈篠原紙工〉、鉄工業の〈アマドック〉、印刷会社の〈一九堂印刷所〉の5社。このうち各チームが2社ずつを巡る見学ツアーが始まった。

徹底的に仕事を楽しむことが、仕事を広げる道筋に。

Bチームが最初に訪問したのは、1974年創業の製本会社〈篠原紙工〉。全国流通するようなベストセラーではなく、500〜1000部ほどのアートブックや写真集、ブランドブックのような少部数の特殊製本などを得意としている。また、紙製の文房具やアクセサリーなど、紙を使ったユニークなプロダクトも提案。単に受注されたものをそのまま製造するのではなく、ともにつくることをモットーにしているというのは、2代目の篠原慶丞さん。

「大切にしているのは“何のためにつくるのか”ということ。発注に忠実に良いものにするかより、クライアントが丸い本をつくりたいと言った時になぜ丸い本なのか、その理由を何度もヒアリングして一緒にプロジェクトを育てていく。クライアントはお客様ではなく、一緒にものづくりをするパートナーだと思っています」

以前は100%印刷会社からの下請けだったというが、今はデザイン会社などからの発注で、国内外のコンテストで受賞をするような仕事に関わっている。その根底には、“楽しく仕事をする”という大前提がある。

「うちより安くて、技術力を持つ印刷会社はあるかもしれない。でも、間違いなく自信を持って言えるのは、うちとやると楽しいということ。これまでやったことのないクリエイティブな本が実現した時は、嬉しいし、楽しい。それが技術の発展にもつながるし、お客様にも喜んでいただける。楽しく働けば、従業員やお客様など、いろんな人が集まってくる。人が集まると、そこで事が起こる。事が起これば、お金が動く。その時に経済が動くように細部の調整をするのが、社長の役割かなと思っています」

新しいことへのチャレンジを厭わないから、想定していなかった出来事に見舞われることも多々ある。でも、クライアントとしっかりチームになっていれば、受注/発注側で対立するのではなく、互いに助け合うことができる。“何のためにつくるか”その本質を共有していれば、軌道修正の時にも方向性を見失わない。

「工場を合併するなど大変な時期もありましたが、自分にとって幸せなこと、好きなことをやろうと割り切ったら、上向きになって行った。その幸せを共有できる人が、集まってきたんですよね。だから仕事も最終的には“人”の話になってくる。社員というのは会社に依存してくるものですが、うちではお金と心が自立できる状態にあるということを大切にしています」

そのために、コミュニケーションの時間を長く取る。朝のミーティングで1日に1時間は雑談をしているという。

「情報交換ではなく、仕事に対してどう思うのか、社内だけでなくクライアントとも話すということをしています。だから、意思のないクライアントとは仕事をしません」

社員やクライアントと、自立した関係性で仕事を楽しむ。その筋の通った姿勢が、会社を成功に導いている。

ルーツを紐解き、ブランドの魅力を伝えていく。

次に向かったのは、創業1933年の老舗物流機器の〈花岡車輌〉。日本で初めて台車やリフト台車、空港用カートなどを開発、空港を数珠つなぎで走るトレーラーに至っては世界初と、一般にその名が認知されることのない厳しい業界ながら、新しい試みを続けてきた。

「足立ブランド」をショールームに案内してくれたのは、2010年に弟と一緒に家業を支えることになった花岡雅さん。美大出身で、インテリアデザインやSEの経験もある花岡さんは、デザイン、広報、SE、総務、営業も兼任している。

「当時は新しい商品を作っても鳴かず飛ばずの業界で、入社した時の主力商品が45年前の1965年に作った台車〈ダンディシリーズ〉だったことには驚愕しました。カタログもホームページも昔のままで、時代とのギャップを感じましたね」

〈花岡車輌〉らしい差別化戦略と市場改革、パイオニアとして台車の常識を変え、価値を上げる改革をしたいと、まずはリブランディングに乗り出した。自らデザインして企業の顔であるショールームの改装を行い、パンフレットやホームページ、SNSでの発信なども、出来る限り自分たちで行った。

「単にデザインを変えるだけでなく、歴史や企業理念を全部紐解いて、お客さんから何が評価されていて、何を軸にしていくかをしっかり決めてブランドデザインに落とし込みました。名刺やホームページなど、お客さんとのタッチポイントは全てチャンス。“違いを出すなら徹底的に”というのは、今も心がけています」

〈花岡車輌〉らしさを感じさせるリブランディングは業界に大きなインパクトを与え、ファンを獲得することにもつながった。また、企業戦略に続く製品戦略としても、日本初の台車メーカーという背景をしっかりと落とし込むことに重きを置いた。そうしてデザイナーと組んだフラッグシップモデルを発表すると、雑誌に掲載され、ドラマのセット協力の話が来たり、グッドデザイン賞の受賞につながったりと、これまでにない展開を見せた。

また、コロナで空港市場が落ち込んだ時に取り組んだのが、これまでの物流業界とは違うターゲットを見据えた、BtoC市場への挑戦だ。公園やキャンプでのシェアを考えた、薄く畳めて二輪にも四輪にもなる「FLAT CART 2×4」はキャンプブームの追い風を受け、〈BEAMS〉との先行発売で異例の売上ランキングトップも実現。様々な企業の別注に答えるほどのヒット商品となった。

「〈BEAMS〉さんとのつながりも、たまたま妻がゴルフ場の受付をしていてつながったのがきっかけなんです。ホームページでなんだか普通の台車メーカーではなさそうだと思ってもらえたのと、日本で初めて台車やカートを作ったところの商品だから信頼してもらえたというのもあると思います。これからも、違うカテゴリーに高品質な製品を仕掛けて、台車を初めて作ったメーカーとして世の中に感動を届けたい。世界一カッコいいカートメーカーになりたいですね」

行動指針は「ダンディであれ」と花岡さん。小さな行動の一つひとつが結果を生んでいくということを自らの経験を持って教えてくれた。

「江東ブランド」に感じた、それぞれの「WOW!」。

見学した2社を振り返ったが、木材加工の〈北三〉、鉄工業の〈アマドック〉、印刷会社の〈一九堂印刷所〉を回った別チームとも〈江東区産業会館〉で合流。各チームが見学した先での気付きや学び、驚きなど「WOW!」なポイントをまとめて発表するかたちで、工場見学の報告会が行われた。

Aチームが〈花岡車輌〉に感じた「WOW!」には、兄弟揃っての行動力や、美大出身ならではのセンスがあったからこその挑戦。また、徹底した継続力が成功のカギになったという気付きもあった。一方の〈北三〉は、紙のように薄くスライスした「ツキ板」と呼ばれる木の加工メーカー。初めて「ツキ板」を知ったというチームは、0.2mmという紙よりも薄い板をつくる実力や、それが実は身近な建築などに使われているということにも驚いたと発表。ブランドを象徴するショールームの展示も圧巻だったという。

Bチームが〈篠原紙工〉に感じた「WOW!」は、社員の自立のために、1日1時間は割くというコミュニケーション。実時間による生産性よりも、長期のスパンで価値のあるものと捉えて実行していることに心が動かされたという。また、新しいことに生き生きと取り組んでいることが、会社の雰囲気や若い従業員の姿勢にも見て取れた。〈花岡車輌〉では、歴史や強みを全て紐解いた上で一本化することを、言葉通り徹底していたと感じた。偶然の出会いを商品化につなげ、さらにその先まで展開していくところに、しっかりと運をものにするだけの実行力を感じた。

Cチームは100年以上続く鉄鋼業の老舗〈アマドック〉の入口にあった体験教室で、子どもたちがドリルで鉄材料に穴を開けたり、溶接までやっていることを「WOW!」ポイントに。社長が何でもしていいと社員に言っているように、長い歴史がある企業であっても新しいことにチャレンジし、社員の意見を取り入れたものづくりをしていることに学ぶことが大きかったという。もう一つの〈一九堂印刷所〉での「WOW!」は、長年の技術に培われているから、製版から製本まで一貫して細やかな製品ができること。CDのパッケージ印刷の繊細な作業にも驚いたという。

チームの発表が終わり、「江東ブランド」の他企業も交えて、手掛けている商品をプレゼンテーションしながらの交流会に。参加者による投票式で、最後は最も共感を集めたBチームの「WOW!」に景品が贈られた。

実際のものづくりの現場を訪ねながら、様々な意見が交わされた「足立ブランド」と「江東ブランド」との交流会。ユニークな企業とのコミュニケーションに現場も始終、和気あいあいと暖かな空気感に包まれていた。今後、互いの技術を生かしたタッグが実現することもあるかもしれない。区をまたいでできることの可能性を広げていくような会となった。

今回の交流先

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江東区ものづくり団地

江東区は、鉄・木・ガラス・繊維から家具・伝統工芸に至るまで、ありとあらゆるモノヅクリが揃っています。何かを作りたいと思いついたらまず江東区へ。製造拠点と直結しているから近くで早く、やりたいことが叶います。

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