過去30年にわたりCATV用の電源供給装置メーカーとして堅調な発展を遂げてきた東京電源(株)。近年インターネットの普及や新技術の登場などの影響を受け、通信放送業界は激しい変革の渦中にあり、同社も新たな方向性の模索を促されています。夏目社長にお話を伺いました。
ー まずは御社の業務内容についてお聞かせください。
社名のとおり、業務用の電源や変圧器などを製造販売しているメーカーです。主要製品は、CATV放送用無停電電源供給器です。また、電源機器事業の他、環境衛生機器の販売・メンテナンスの事業も行っています。
ー 社長は二代目とお聞きしています。御社の沿革について教えてください。
父であり初代社長の夏目孝之が、1967年に品川区中延で創業しました。父は長野県の出身で、高校卒業後上京し、通信関連メーカーなどでトランス設計に携わりました。創業後の業務としては、交流定電圧電源装置や国内空港設備用交流安定化電源装置、テレビ共聴用電源供給器などの設計製造などを経て、1987年からCATV施設向けの無停電電源供給器の開発・製造を始め、今に至ります。私は2008年に入社し、2016年に社長に就任しました。
ー CATV用の電源供給装置とはどんな役割を果たすものなんですか?
CATVは、局から同軸ケーブルで映像・音声信号を各家庭に送信しているのですが、送る途中で信号は減衰する。このため、CATV網の途中に増幅器を設置し、増幅する必要があるんですが、この増幅器に対する電気を供給するのがCATV用電源供給器です。無停電電源供給器は、停電時でも電気を供給できるようにするためのバッテリーを備えたものです。
ー 各家庭でいつでもCATV放送を楽しめるのは、電源供給器のおかげでもあるんですね。ところで、CATVはもう十分に普及が進んでいるように見えますが今後どう発展していくんでしょうか?
2000年くらいからCATVの全国的な普及が進み、数年前からほぼ飽和状態に達しています。この間、地デジ放送の開始やインターネットの普及、4K8Kと通信放送の世界の変化は急速に進んできました。CATV事業者もこれまでの映像配信だけでは事業が成り立ちづらいということで、インターネット事業への進出、さらに今は次の何かを模索しつつあるといったところです。弊社は、電源関連のノウハウはあるので、そういったところに既存のお客様のニーズを掘り起こしていければと考えています。
ー CATV事業者の新たな動きとして具体的には?
CATVのインフラ網を利用したサービス、たとえばセキュリティ分野での活用などがあります。ニーズは結構あるんですが、既存設備の利用だけでは対応できないので、弊社製品へのニーズも出てくるものと考えています。
それから、たとえば河川監視カメラや雨量センサーなどを動作させる時、センサー自体には電気はそう必要ないんですが、得られたデータをネットで飛ばしたりクラウドに上げたりする際にはそこそこの電気が必要となる。そこを狙いとし、弊社は業務用の太陽光独立電源供給器を開発しました。太陽光パネルで発電、電源で変電・蓄電の役割を果たすシステムです。50Wの監視カメラの用途で引き合いは多いので、今後伸びていくものと期待しています。
ー 新たなニーズの発掘と同時に御社自体もそれに合わせた体制に変えていく必要がありそうですね
弊社の今期のスローガンは、「徹・拡・脱」です。来期もこれを継続したいと考えています。「徹・拡・脱」にはそれぞれ後ろに「本業」という言葉が付きます。「徹本業」とは、CATVに関わる既存のお客様に対する業務は継続して行うということ。「拡本業」とは、別の分野に対してPRし、お客様を拡大していこうということ。たとえば、今はwifiの無線通信機器が至るところに展開されており、そういったところにも必ず電気が必要になる。CATV以外の分野で弊社の強みが活かせる可能性があるわけです。「脱本業」とは、電源一筋だった今までから脱し、新たな事業として環境衛生機器事業を2本目の柱に育て上げることです。
ー 環境衛生機器事業も手がけられているとか
(株)テックコーポレーションの水素水サーバーや電解水生成装置の販売とメンテナンスを行っています。これからの時代のキーワードは「健康・環境・衛生」です。
水素水については、過去に粗悪品が出回り、2016年に消費者庁から勧告があったこともあり、現在は粗悪品が排除されつつあります。ただし、人によって効果はまちまちです。今は、「活性酸素の体外への排出に効果がある場合がある」とまでしか言えない感じです。効果を得た利用者を増やしていくことが今後の課題となるでしょう。
電解水については、衛生管理に効果があることはもう証明されています。改正食品衛生法で、食品の製造・加工・調理・販売などを行う全事業者に対して、2020年からHACCAP(ハサップ)に沿った衛生管理が義務化されることになりました。その対策をするツールのひとつとして、電解水生成装置が今後伸びる可能性があり、今は食品加工業者などに対してダイレクトメールやテレアポを行っているところです。あとは、農林水産省が電解水を特定農薬に指定したため、農業での利用拡大も期待できます。電解水は水と塩だけで作れるのがいいところです。足立区周辺の農家さんなどで採用してくれるところがあればいいんですけどね。地域貢献にも一役買えればいいなと考えています。
ー 通信放送業界だけでなく環境衛生分野でも今後いろいろな動きがありそうですね。社長として御社をどう導いていこうとお考えですか。
電源機器事業と環境衛生機器事業というふたつの事業を、「環境」というキーワードで今後も進めていきます。たとえば、電気で制御して環境衛生機器を動かすとか、電源と環境を一部分でも融合させられるような機器なども考えていければと思います。
弊社はそんなに大きな電力をまかなえる製品が作れません。一方、今は家電だけではなく産業用も省エネ節電という方向になっており、電源もあまり大きなものが必要なくなるとか、小さいものを散りばめるといった方向になってきています。そこで、いっそワット数の小さなものに目を向け、これまで手がけてきたものより小さいものにシフトしていく方がいいのではないか、その方が苦労が少ないのではないかと考えています。実際そういったニーズも来ているので、来期からはそちらの方向を強めていきたいと考えています。
また、弊社には、設計から製造まで一からやれる強みがある一方、営業面が弱いと感じています。会社が成長していくためには、これまでにないニーズを拾える体制にしていかなければなりません。顧客候補とのつながりさえできれば、あとは技術や製造など弊社の強みを発揮することで受注までもっていける期待が高まります。顧客候補とのつながりを獲得できるようなコミュニケーション力が弊社の営業に求められるところなのです。このためごく最近、全く別の業界にいた若手人材を雇用し、社内こぞって一人前の営業担当に育てようとしているところです。
それに加えて、これまで関わってきたものとは異なる分野にPRし、新たな顧客を獲得できるようになるためには、営業担当だけではなく、社員ひとりひとりが自覚を持ってより活躍できるようになることが大事だと考えています。先代のころから上司が社員の仕事につい手を出してしまい、それが度を越してしまうという傾向があった。これを改めるため、これまで私がやっていた仕事をできるだけ人に振るようにしました。「これからは小さなものにシフトしていく」といった大まかな方向性を示すのが私の仕事であり、あとはその方向性に従って社員が自主性を持って自覚的に取り組んでくれるような会社にしていきたいと考えています。