精密薄板バネのエキスパートとして長い実績を誇る(株)トミテック。順送金型の設計・製造からプレス加工、納品まで一貫した生産体制を強みとしています。現社長の代になり、提案型企業への転換を図るため、さまざまな取り組みを積極的に行っています。尾頭代表にお話を伺いました。

 ー まず御社の業務内容についてお教えください

(株)トミテック 尾頭美恵子 代表

精密プレス加工で精密薄板バネを製造しています。プレス加工だけではなく、順送プレス金型の設計・製造が社内でできる点が強みです。弊社の精密薄板バネは、自動車やOA機器、住宅関連の部品として使われています。

 ー 尾頭社長は4代目ということですが、御社は創業当時から薄板バネ製造をやっていたんですか?

各種の精密薄板バネ。精密機器の部品として使用されることも多く、要求精度も年々厳しくなっている。

そうなんです。金型職人だった私の父、富岡正一が1959年に独立して創業したのですが、当時から板バネのプレス加工と金型製造をやっていました。当時は白物といわれる家電の部品が大半でした。時代を経るにしたがって、自動車部品やOA機器などメインとなる受注は変わっていきました。弊社も父から母、夫から私と社長を引き継いできました。

 ー 精密薄板バネの業界は現在どんな感じでしょうか

弊社は量産物を得意としています。量産者は以前に比べると、今は海外製品が当たり前になり、受注個数は減っています。毎年1千万個くらい流れていたものがストップしたり、金型も消耗品なので何千万ショットと打った後によそに行っちゃうということもあります。
しかし板バネのニーズは常にあるんです。今でも残っている弊社への注文は、材料費が相対的に高価な銅製品が多いですね。あとは、複雑な形状のものや難しい仕事、つまり付加価値のある仕事については、量産といえどもニーズは国内に残っています。

順送プレス金型。単一金型内に、加工内容の異なる複数の小さな金型が順番に配置されているイメージ。プレス加工機は、1ショット打つたびにロール状の金属材料を次の工程に1ピッチずつ送る。通常の単発金型では、プレス加工機への金型のセットの時間や手間がかかるため、加工工程が多くかつロットの多い案件には対応しづらい。一方、順送プレス金型の設計・製造には高度な技術が必要とされる。薄板バネとなると、そこにさらにバネ材の塑性、弾性を考慮して設計するという

 ー 順送プレス金型の設計・製造には高度な技術が必要と聞いたことがあります

順送プレスの型が作れるのは区内ではうちだけかもしれません。長年やっていますので、複雑になればなるほど、付加価値が高くなればなるほど弊社のような企業に仕事が集中します。順送プレス金型は、工程が複雑になるほど金型も大きくなります。昔から弊社には45tプレス加工機があったんですが、今は110tプレスを導入しています。薄板バネのような小さな物をプレスするにしても、金型が複雑で大きくなったためです。うちがこんなに大きなプレス機を持つようになるとはかつては思ってもみませんでしたが。
とはいえ、今は多品種小ロットが主流になっているので、これに対応するため2018年1月に単発プレスを3台導入しました。おかげさまで、現在は単発プレスの特殊な仕事をいただいています。
営業的には、「精密プレスのことならトミテックにお任せください」とは謳っていますが、「うちだけができる」といったものはまだないので、そこが課題といえるでしょうか。

 ー 2017年に社長に就任されたということですが、新機軸を打ち出した点はありますか?

まず取り組んだのが、会社をトップダウンではなく、社員みんなの意見を取り入れる形に変えるということです。よりよい会社にするための意見を社員からも募り、ともに考えていく体制にしたいと考えました。おかげで今では社員がお互いに話し合い、課題解決に自ら取り組んでくれるようになりました。
また、弊社は長年培った技術力に自信はあるのですが、顧客からの注文を待っているばかりでは、保有する技術力が十分に活かせない。技術力のさらなる向上を図り、顧客に技術提案できる会社になることを目指しました。弊社には30代の金型職人と社長就任の2年前に入社した30代の息子がいます。このふたりが中心となって、さらなる技術力向上に向けて積極的に取り組んでくれています。IoTが時代の潮流となる中で、町工場でも技術とITの融合が生き残りのカギとなるという想いもあり、24時間稼働可能で、稼働状況をスマホで管理できるワイヤ放電加工機を導入したり、昨年はLAN接続により社内のパソコンで管理できる単発プレス機を3台導入しました。ITについてはやはり若い人の方が強いので、30代のふたりはこれらの機器の導入や操作の習得などで大いに力を発揮してくれました。

24時間稼働可能なワイヤ放電加工機を操作する、社長子息の尾頭孝幸取締役。この機械の導入で生産性は格段に向上したが、稼働状況がスマホで確認できるため、まれに機械が停止することがあると夜間でも工場に駆けつけなければならない苦労もあるという

 ー 顧客からの注文に応じた部品製造だけから技術提案ができるようになるためには企業として体制を改革するご苦労もあったと思うのですが

そうですね。前社長までは、そういったことに積極的に取り組んではおらず、たとえば、設計の担当者は設計だけやっていればいいという感じでした。でも、よそとの違いを出していかないとこの先生き残れなくなると感じていたので、体制を変えていく必要があった。顧客の困っている案件で弊社が対応できそうなものがある場合、営業担当者に技術担当者を同行させて、うちから技術的な提案を行うことにしたのです。最初のうち、技術担当者の重い腰を無理やり上げさせるという感じでしたが、今ではひとりでも自発的に動くようになり、顧客の担当者といっしょに設計開発を進めたりもしています。
あとは、足立ブランドに認定されて展示会に出る機会が増えたおかげで、それまで数年間1社もなかった新規顧客との取引が、10数社増えました。そうなるとお客様の「困った」に応える技術営業を仕掛ける機会も増えます。営業体制の改革とPR機会の増加が相まって、将来に期待を見出せる効果が生まれてきたのです。
自分だけだと未来に希望を見出すことが難しかったかもしれませんが、幸い息子が取締役として現場でがんばってくれているおかげで、企業としてもっと成長したいと思えるようになりました。今後も「職人技とITの融合」を進めていきます。機械ができることは機械にやってもらって、人間はその上を行く技を磨くという方向で技術力の向上を図っていきます。

 ー 社内には取締役を始めまだ若い技術者の方もいらっしゃるので今後も色々と期待できそうですね。ところで、社長は自社商品の開発にも力を入れているそうですが

うちには見えるものが何もないので、直接消費者の手に渡るもの、「役に立つ」と喜んでもらえるものが作れたら嬉しいだろうなという想いで、自社商品の開発に取り組んでいます。
これまでTASKものづくり大賞に応募し、3年間連続で優秀賞や奨励賞をいただいたこともあるのですが、商品としては今ひとつという感じでした。今取り組んでいるのは、「iNSTA-CLiP(インスタクリップ)」という、インスタントカメラで撮影した写真をおしゃれに掲示するステンレス製のクリップです。「あだち異業種交流会未来クラブ」で月に1回、デザイン講座が開催されているのですが、その講師であるプロダクトデザイナーやグラフィックデザイナーの方とともに「未来DESIGN」という新たな足立のブランドを立ち上げようとみんなで取り組んでいます。「iNSTA-CLiP」は、弊社と「未来DESIGN」との協創プロジェクトで、弊社の技術を活かした製品です。雑貨expoに出展したところ、いい感触を得たんですが、現在はまだそれ以上には進展していません。別途OEMの引き合いもいただいたので、そちらの方はクラウドファンディングなど形を変えて弊社の自社製品として展開できればと考えています。

金属プレス加工のエキスパートである同社とこれからの生活提案を掲げる「未来DESIGN」との協創プロジェクトで生み出された「iNSTA-CLiP(インスタクリップ)」。遊び心で新時代をリードする「カメラ女子」に向けた商品。インスタントカメラで撮影した写真をおしゃれに掲示するステンレス製のクリップで、指で自由に折り曲げられ、折り曲げ角度も自由であるという特長を有する

 ー今後の展望についてお聞かせください

職人技は残したい、でも今の時代なので職人とITの技の融合を目指していけたらいいなと思う。昭和36年から足立区に来て、ずっと仕事をさせていただいた。私自身も半世紀過ぎた時に、足立区に何か貢献したいとずっと思ってて、地域貢献や環境活動などをやってきた。足立ブランド認定していただいたことでさらに足立区の活性化に繋げられる活動ができたらなと思う。

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(株)トミテック 代表取締役  尾頭美恵子

中学校でバレーボール部のキャプテンとして活躍。高校入学後も部活に取り組もうとしていた矢先、入学後1か月にして創業者である父が倒れたため、部活を断念して新社長に就任した母を助けることに。高校卒業後、大手債権銀行の人事部勤務を経て同社に入社。工場現場でケトバシを踏んだり、得意先への配達、事務経理、営業など会社の業務に加え家事全般を担うなどマルチに活動。2017年、前任者である夫を引き継ぎ社長に就任。中学卒業以後ずっと働き詰めという印象だが、「悔しいことはいっぱいあったが、苦痛だと思ったことはなかった。困難な局面も、バレーボールで培った『なにくそ根性』であきらめずやってきた」という。

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