アクリルパーツ加工専門工場として長い実績を誇る(有)三幸。
問屋やメーカーなどからアクリルアクセサリー等を受注し製造することが業務の中心ですが、近年オリジナルアクリル板を販売する店舗を設け、消費者を対象にしたアクセサリーづくりのワークショップを開催するなど、一般消費者に向けた展開も強めています。
小沢代表にお話をお伺いしました。

 ー おしゃれで明るい店舗ですね。どんなきっかけで開設したんですか?

(有)三幸 小沢 頼寿代表

祖父の代から工場はこの裏なんです。5年前、この場所に空きが出たので借り、ショップを始めました。ここであれば工場を移設する必要もないですし。
弊社は1970年に祖父が創業しました。2000年に祖父が逝去して父が後継し、さらに2015年に私が社長に就任したのですが、ずっとアクリルアクセサリーの加工をやってきました。アパレルさんからのアクセサリーの注文が多かったんですが、今はファッション業界が低迷しており、対応を迫られていました。

 ー これまでとは異なる顧客層への訴求などが必要になったということですね

中国の大量生産の影響などを受け、国内では特殊なアクリル加工をやる工場はほぼなくなってしまいました。弊社は、中国との値段の競争を避け、なるべくお客さんに近いところでやれるメリットを活かし、技術で付加価値を付ける方向でやっていくことにしました。社長就任以来、知名度の向上や技術力のPRを図るため、展示会出展やワークショップの開催、ホームページの強化などいろんなことをやりました。店舗の開設はその一環なんです。

工場の隣に併設されている、明るくおしゃれな雰囲気の店舗「Tokyo Acryl」。常時700種類以上のオリジナルアクリル板を展示販売している

 ー ところで展示されている多様な美しいオリジナルアクリル板はどのようにして作られるんですか?

昔から、デザインを弊社で考え、材料屋さんに注文しています。しかし近年材料屋さんも急速に減っており、現在では知っている限り、国内で2〜3社程度になってしまいました。いずれも親子だけでやっているような小さなところばかりなので、やめられてしまう前に自社内での素材作りができる体制を早急に整える必要がある。そこで5年ほど前から自分たちで研究しながら作るようになり、今では比較的小さなものは自社で作ることが多くなりました。
アクリルは、ガラスよりも光を透過しやすく透明度が高いため色が美しく出やすいということに加え、加工しやすいという特長があります。このため、クリエイターの方やものづくり好きな個人の方に訴求しやすい素材であるといえます。
店舗の売上は、弊社全体売上のまだ10%程度にしか過ぎません。しかし、受注製造の仕事よりも利益率が高く、宣伝効果も高いんです。これからもっと伸ばしていきたいですね。
SNSなどを通し、さまざまな情報が瞬時に世界中に回る時代になりましたが、弊社はこの技術を国内で守っていきたい、国内のこの場所から情報発信していきたいという想いもあり、一切通販は行っていません。いろんなところから通販して欲しいという要望の声を聞きますが、「ここに来ないと買えないよ」と突っぱねています。先週ロンドンからお客さんが訪ねてきました。他にも世界各国から訪ねてくださいます。世界的に見ても、オリジナルアクリル板を一般に販売する店舗は希少なのかもしれません。

和紙を封入したアクリル板。クリアや単色だけでなく、和紙や布、ラメなどの封入などにより、表現は無限に広がる。同社では現在まで6000種類以上のアクリル板を開発してきた

 ー 海外展開も模索中だとか?

海外展開の可能性を探りたくて、最初は5〜6年前の香港の展示会で加工技術のPRを行いました。以後3年間出展しましたが、たいした成果は挙げられなかったものの、海外の市場を知り、いろんな方とも知り合いになれました。その後3年前に台湾のイベントに2年間出ました。このイベントでは、販売が可能だったので、こちらからアクリルパーツを持っていって販売しました。台湾のクリエイターの方などが購入してくださり、台湾にもニーズがあるということを確認できました。現在は、中小企業庁の「ふるさとデザインアカデミー」という事業の一環で、台湾のクリエイターの方とのコラボで製品づくりを進めています。
海外展示会に何回か出て感じたのは、弊社は今の段階では国内に集中してマーケットをもっと広げる必要があるということ。海外展開を本格的に図るのは、日本のマーケットを大きくおさえた後の方が効果的だということです。

レーザー照射により微細な彫刻やカットが可能な「レーザー加工機」。同社では8台のレーザー加工機を始め、レーザーでは表現できない面取り加工(切り口を斜めにする加工)や彫刻加工が可能な「3軸門型 NC工作機械」、バフ研磨機やバレル研磨機、UVプリンタなどの設備を備え、あらゆるアクリル加工のニーズに応えている

 ー 今後の展望についてどのようにお考えですか?

将来に向けて、素材から最終製品まで一貫生産に向けた体制づくりを図っていきたいですね。これをやらないと生き残れないと思います。まず素材については、自社ですべて作れる環境づくりが必要です。工場の拡張が必要となるため、移転も視野に入れて考えていきたい。並行して、自社アクセサリのブランド化などを進めていきたい。最終的に素材屋さんやお客さんの動向に左右されず、自分らでコントロールできるような形にできればと考えています。
あとは、時代の変化もあるので、次の一手も考えながら進めていきたいですね。そのひとつとして、デザインやファッション、アートなどに関心の高い層が多い東京の西側、たとえば吉祥寺とか渋谷とか目黒とかにお店を持ちたいなと。そうした場所の方が今よりも集客できるはずですから。あるいは金属のパーツなどを売っている浅草橋とかも、用事のついでに寄ってくれる可能性があるのでいいかもしれません。本社は足立区に置いたまま、こうした場所に店舗を設けることができればいいですね。そのあたりも含めて事業展開の余地はまだあるものと考えています。

同社のオリジナル製品であるパスケース。
同社のオリジナル製品であるスライドミラー。パスケースと共に、コンサートやアニメグッズなどで採用されることの多い、10年以上続く同社の定番商品となっている
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(有)三幸 代表 小沢頼寿

1979年、埼玉県大宮市(現さいたま市大宮区)生まれ。普通科高校卒業後、建築業や沖縄で飲食業に従事するなど、いろいろなことを経験した。成人を機に沖縄から帰郷し、同社に入社。2015年に社長就任。物腰が低く、穏やかで優しい語り口が魅力の好人物だが、その見かけとは裏腹に、ダイエット目的で始めたキックボクシングの熱が高じ、ついにはプロとしてリングに立った経歴を有する。

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