皿・盆など、銀器の製造を行う(有)坂巻製作所。江戸時代からの伝統技術である鍛金(たんきん)技術を先代から承継した銀師(しろがねし)であり、東京金銀器工業協同組合の副理事長でもある坂巻亨(とおる)代表にお話を伺いました。

– どのようなものを製作されているのでしょうか?

有限会社坂巻製作所 代表取締役 坂巻 亨 氏

ゴルフ大会の優勝者に贈られる銀盆や、お皿・盃(さかずき)等の銀食器などを主に製作しています。先代と共に宮内庁で使用される銀食器を製作し、新宮殿落成晩餐会(ばんさんかい)で用いられたこともあります。作り方としては、例えば銀盆なら一枚の銀板からプレスで成形し、模様を作って貼り、模様の通りに切り落とし綺麗に磨いていきます。

対馬砥石(つしまといし)を用いた仕上げ作業の様子

銀盆製作で難しいのは滑らかさを出すことです。仕上げの際、対馬砥石(つしまといし)で地金の傷、作業中の傷を取り、砥石目を桐炭(きりずみ)でさらに細かくし、バフ研磨で鏡面仕上げにして完成させます。うちではその滑らかさを出すことが売りであり、こだわりです。研ぎ作業はもう果てしないですね(笑)。

坂巻製作所で扱う中で最大の銀盆

– 他にはどういったものを作られているんですか?

坂巻さんの仕事道具の数々

銀業界に置物ブームがあったころは、贈答用の銀のだるまや縁起物の置物なども製作していました。昔は家を建て終わった人にそのだるまを贈る風習があったんです。最近は1人でやっていることもあり、お盆の製造が多いですが、他に玉盃(ぎょくはい)などの酒器やおろし金など、様々なものを作っています。

達磨(だるま)置物

– 銀の魅力を教えてください。

銀は使い込んだ時の色がいいですね。新品の綺麗な銀色も良いですが、使い込むとつや消しのような白になります。黒みのある色を表現する「いぶし銀」という言葉は、人にもたとえられる言葉です。その色にほれ込み、あえて薬品を使いいぶし銀にする職人もいます。銀に魅せられた人をとことんほれ込ませ、そして使い込みたくなる、そんな強い魅力が銀にはありますね。

銀盆の美しい模様

また、銀はきれいに蘇りやすい点も特徴です。正しい方法で手入れをすれば輝きを取り戻します。汚れの取り方は簡単で、アルミホイルを敷いた鍋等にベーキングパウダー・塩・重曹のいずれかを入れて茹でれば綺麗になるんです。または、水で湿らした指で重曹をつけてこするといいですね。東京金銀器工業協同組合の事業として、伝統工芸の授業がある小学4年生向けに、指輪を作るワークショップを行っています。作る過程はもちろん、銀を光らせる磨き方も一緒に覚えられるので、子どもたちにとても好評です。

切嵌象嵌のぐい呑

「手が届かない」と思われがちな銀ですが、実は普段使いにもおすすめです。銀は銀イオンで水を浄化させる作用があり、熱伝導率が高いです。そのため、酒器なら日本酒やワインなど、冷たいお酒を少量入れて飲むといった使い方に適しています。このような手入れの方法や使い方を広め、多くの方に銀を使ってもらいたいです。

– 貴社を代表する製品のひとつである「玉盃」について教えてください。

曲面と磨きにより、玉が浮かび上がるように見える玉盃

水や日本酒を入れると、玉が浮かび上がるように見える盃です。盃の曲面と内側が鏡のように綺麗に磨かれているので、日本酒などを入れると、そこに光が反射して玉が見えます。昔から業界では知られていた盃なのですが、商品化はほとんどされていなかった。しかし私自身が実際に玉盃を使ってみるととても良かったため、ぜひ皆さんにも普段使いしてほしいと思い商品化に至りました。

玉盃の裏面と甲台(こうだい)には、それぞれ別の模様が施される

うちの玉盃は、裏に鎚目(つちめ)の模様をつけ、高さを低めにしてあります。高さが低いと、うつわの重心が下に来るので持ちやすいんです。足にあたる甲台(こうだい)にも模様をつけているのですが、表面が凸凹になるため、うつわ部分につけるのが難しい。それでも手間をかけて、よそに負けない玉盃を作りました。父の日の贈り物などにもいいと思います。ちなみに玉盃は白、ロゼワインやビールでも玉が見えますよ。ぜひ毎日使ってほしいです。

左:お菓子入れ(ボンボニエール) 右:ベルトのバックル

他にも、銀の製品は色々あります。ベルトのバックルやお菓子入れなど、その用途は様々です。ベルトのバックルは切嵌象嵌(きりばめぞうがん)という方法で製作しました。ベースの銀の模様部分をくり抜き、赤銅を同じ形に切り出したものをはめてロウ付けする技術です。小物入れのような形をしているものはお菓子入れ(ボンボニエール)です。宮内庁の引き出物としてご愛顧いただいたこともあります。

– 職人の世界は修行が大変と聞きますが、一人前になったと思えたのはいつ頃でしょうか?

ものを作っていく上では、探求し引き出しをたくさん持つということが大切です。
この世界もまた奥が深く、探求はつきないですね。「ちょっと違うものを作りたい」と思って製作を始めても、長い年月がかかったりします。例えば玉盃なら、今の形を見つけるまでに3年かかりました。自身で使用することにより形を直したりしてたどり着いたので、今の形は気に入っています。自分が満足したいからそのモチベーションを維持できた。よりうまい酒を呑むため、というのも理由の一つですかね(笑)。
確かに職人の世界は修行が必要です。ただ、毎日普通にやっていることなので、嫌になったことはありません。どんな仕事でも毎回初心を忘れずに、製作するよう心がけています。それができなければ、職人じゃないと思いますね。

– 今後の展望についてお聞かせください。

玉盃やおろし金のように、自分で使いたいものを考えて、新たな製品を作っていきたいですね。また、子どもたちに銀食器の使い方や手入れの仕方を教えていますが、この活動を通じて、より多くの子どもたちに銀の良さを伝えていきたい。
銀の魅力を伝えることでマーケットに繋がれば、なお嬉しいと思っています。他にも、各種展示会・展示販売会へ年に数回出展をしています。
仕事は面白く、楽しいです。今後も技術を深めるとともに、銀の魅力を発信していけたらと思います。

認定企業紹介動画

有限会社坂巻製作所 代表取締役 坂巻 亨 氏

1945年生まれ。都立工芸高等学校金属科を卒業後、1964年に入社。父・正次に師事し、組合の後継者育成事業に参加して諸先輩から鍛金・切嵌象嵌(きりばめぞうがん)・彫金・色出しによる仕上げを数年にわたり学ぶ。納得いくまで心を込めて作る銀器は、宮内庁に納められるほどの品質を保っている。

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