1929年の創業から樹脂切削加工を続けてきた(株)オーエム。要求の厳しい案件にも、卓越した加工技術と豊富なノウハウで対応。異分野とのコラボや海外展開などにも意欲的です。大村賢二専務にお話を伺いました。

 ー 今年(2019年)でちょうど創業90周年ですね。御社の沿革についてお聞かせください。

(株) オーエム 大村賢二 専務

私の父である社長の祖父が1929年に足立区内で創業しました。当時は、エボナイト製万年筆の胴軸の切削加工を行っていたそうです。1935年から、現在まで続く大手通信機メーカーとの取り引きが始まり、初めての人工合成樹脂であるベークライト製の絶縁物の加工などを行っていました。

 ー 戦後になると、さらにさまざまな人工樹脂が現れますね。

高い加工精度が要求される樹脂製の電気・電子機器部品、医療機器部品等の精密切削加工が同社の主要業務である

そうですね。塩ビやアクリル樹脂など汎用プラスチックが普及し、さらにエンジニアリングプラスチックやスーパーエンプラなど、次々と新素材が登場しました。弊社の歴史は、天然樹脂から人工樹脂、エンプラ、スーパーエンプラなど、新たな素材に対応しつつ加工を続けてきた歴史なのです。

 ー 現在はどういったお仕事が多いんですか?

やはり電気・電子部品がメインですが、医療器械や機械装置部品、カバーや什器(じゅうき)などの仕事もあります。試作用の部品など少量品や500〜1,000個程度の中量品、つまり金型を起こす必要のない数量の発注が多いですね。また、最近ではデザイナーさんからの仕事も増えてきています。精密切削加工以外にも、曲げや接着、抜き加工も行っています。

板状加工物の切断や面取り、溝切りなどの加工を行う大型NCルーター

 ー 工業部品の切削となると、寸法精度の要求なども年々厳しくなる一方ではないでしょうか。どのように対応されているのですか?

樹脂は熱による変化が大きく、金属よりも寸法精度を出すのが難しい。金属加工では1/1000mm台の公差が当たり前のようですが、樹脂加工では1/100mm台が限界です。弊社は、昔からメーカーさんの試作部隊とお仕事をしてきたので、厳しい要求への対応を日常的に行っています。切削で加工精度を上げるためには、刃物の形状・回転速度などを変えながら、トライアンドエラーを繰り返します。要求にお応えできない場合、素材・形状の変更の提案などをさせていただくこともあります。こうした仕事を長年経験してきたことで、加工技術の向上のみならずお客様への提案力も養われてきました。

ベンチレース(卓上旋盤)による小型加工物の旋盤加工
同社には現在20代から50代まで各年齢階層の職人がおり、「年齢のバランスとしては今が一番いい時期かも」(大村専務)という

  ー 近年、ファッション雑貨の分野にも進出されようとしているとか。工業系とはまったく異なる世界だと思いますが、きっかけは?

私は大学卒業後、2008年に入社しました。直後にリーマンショックが発生し、弊社もかなり影響を被ったのですが、当時私は職人見習いの身。先輩職人に鍛えられる毎日で、将来について考える余裕などありませんでした。2011年には、私は営業担当になっていましたが、東日本大震災の発生後みるみるうちに仕事量が減り、材料の供給も一時的にストップしました。リーマンショック時の経験もあったので、「これはまずい」と考えました。
うちには誇れる加工技術や提案力がある。ただ知名度はせいぜい関東圏どまりで、日本全国には届いていない。そこで、会社の知名度を上げたいと考えました。顧客は大手がメインだったので、足立区周辺にはほぼいなかった。まず近場から固めていき、だんだん広げていこうということで「あだち新製品開発講座」に参加し、そこから周辺町工場との連携が広がっていった。足立ブランドへの応募もそのきっかけのひとつですね。さらに、他地域の交流会などにも顔を出すようになっていきました。

 ー 異業種とのコラボはそうした中で生まれたということですか?

そうです。「+M(プラスエム)」という弊社の初めてのブランドも、仕事で知り合ったデザイナーさんから、加工技術の高さを評価され「いっしょにブランドを作りませんか」と誘われたことがきっかけでした。「異素材を使い、ほかの工場ともつながって作る」というのが「+M」の設立コンセプトで、「M」には「マテリアル」と「町工場」のふたつの意味を込めました。

同社のオリジナルブランド「+M(プラスエム)」の商品「Mirror」(おしゃれ鏡)

「btrail(ビートレイル)」は、世田谷ものづくり学校の異業種交流会で知り合いになったデザイナーさんとのコラボで生まれた製品です。同い年ということもありすぐに意気投合しました。「なにか一緒にやりたいね」とずっと言っていたのですが、ふたりの時間ができたタイミングで、いろいろと話し合いながら一年ほどかけて作りました。

 ー アクリルは、デザイナー心を触発するような素材なのかもしれませんね。btrailは素材の美しさが十分に活かされた製品のように見えます。

展示会では来場者の目を引き、反響は非常に大きかったですね。MOMA(ニューヨーク近代美術館)の公式プロダクトの最終選考までいったりもしました。安売りはしないというコンセプトで作ったものであり、今はお客様を開拓しようとしているところです。

「プラスチックの女王」とも呼ばれるアクリル樹脂の高い透明度を存分に活かした美しい知育玩具「btrail(ビートレイル)」

「bamboo(バンブー)」は、工場で音楽をかけながら作業するのが好きな私の兄の発想を活かした製品です。大きな音にしたいということで、アクリルのパイプを加工し、スマホを入れてみたら意外にも反響した。そこで、「あだち新製品開発講座」でブラッシュアップを図ったり、「TASKものづくり大賞」に応募して消費者の反応などを探りました。またクラウドファンディングを利用して開発資金等の支援を募ったところ、すぐに目標金額を達成することができました。

アクリルパイプは欠けやすいんですが、加工によって欠けづらくすることもできる。btrailもそうですが、うちの加工技術が活かされた製品となっているんです。

スマホ用スピーカー「bamboo(バンブー)」。2019年3月現在、改良モデルを開発中で、年内中のリリースを目指している

 ー 見る人は、これらの製品の中にデザインや機能性ばかりでなく、加工技術の高さを見てくれるんですね。

こうした製品づくりにより、デザイナーやスタートアップ企業など、従来はほとんど接点のなかった企業様などからの依頼も入ってくるようになりました。
去年(2018年)、日本工学院デザインカレッジから依頼され、プロダクトデザイン科で非常勤講師として教壇に立ち、卒業制作で、学生がデザインしたプロダクトの製作を手伝いました。また、他の大学のプロダクトデザイン科から卒業展のプロダクト製作の仕事も来ました。うちは加工ができますが、デザインは弱いので、こうした機会を通してデザイナーなどとのマッチングの可能性が広げられればありがたいですね。

日本工学院デザインカレッジ プロダクトデザイン科の学生がデザインし、同社が製作した「和独楽(わこま)」。同社の精密切削技術で中心の精度を出し、きれいな回転を実現した

 ー 海外展開も模索中だとか?

先日、香港で開催された展示会に出展してきました。初めての海外展示会だったんですが、日本と海外のものづくりに対する考え方の違いを強く印象付けられました。いかに速く作れるかということがより重視されている。あとは、人々の「生きる」ということに対しての必死さみたいなものも感じました。
プロダクトの反響はよかったんですが、ビジネスとしては、価格帯などいろいろな課題がある。今後進めるためには、連携によってデザイン力をさらに強化し、販売方法についてももっと勉強が必要と感じました。
今後も欧州などにも視野を広げ、海外展開の方向性を探りたいと考えています。

 ー 会社の知名度の向上と他社等との連携という方向性はこれからも継続していくんでしょうか。

そうですね。オーエムという名前を日本全国に広めることを目標にPRしていきたい。あとは連携をもっと広げ、その過程で得られるニーズやシーズを弊社の可能性やビジネスの拡大につなげていきたいですね。

株)オーエム 専務取締役 大村賢二 氏
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株)オーエム 専務取締役 大村賢二

1982年生まれ。大学卒業後、2008年に入社。入社後は先輩職人に鍛えられながら職人としての技を習得。現場での3年の修業を経て、以後営業を中心に活躍。樹脂精密切削技術を得意とする同社の可能性をさらに広げるため、企業間ネットワークやクリエイター、デザイナーなど異分野との連携、海外展開など多方面に視野を広げ、同社の将来の方向性を模索している。

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