坂巻製作所がこの春、あだち産業センター1階ショーケースで作品を展示。足立に燦然と輝く銀師(しろがねし)の美技に酔うべし!
優れた製品・技術を持つ事業者を広く認定し区内外へPRする「足立ブランド」。認定企業である坂巻製作所が、あだち産業センター1階ショーケースで2025年4月からの新年度以降も作品展示が決定!!
(本記事は「足立ブランド」としてPR TIMESに掲載したプレスリリースの転載になります)
坂巻 亨氏がひたすらに歩み続ける銀器の白眉。東京マイスターである坂巻氏が運営する『坂巻製作所』もまた「足立ブランド」認定企業のひとつです。坂巻氏の技術、「足立ブランド」との関わりについて今回語っていただきました。
▎足立ブランドと伝統工芸のめぐり合い
隅田川沿川の千住緑町、住宅地の一角。そこに『有限会社坂巻製作所』があります。歴史を感じさせる佇まい、よく手入れの行き届いた庭木が印象的な一軒家のひと隅に、銀器を製造する坂巻亨氏の工房があります。素人には見慣れぬ年季の入った銀器製作の道具に囲まれながら優しく静かに語り出す坂巻氏。

「私は2代目なんです。この仕事を18歳の時に始めて、今年で79歳になりました。父親の背中を見て、小さい頃から銀板を叩き、作る真似をしていたので学校(都立工芸高校の金属科)を卒業し、跡を継ぐのは自然の成り行きでした」

現在、坂巻さんはその「東京銀器」を統括する組合「東京金銀器工業協同組合」の常務理事も務めます。
成形は、鍛金にあっては地金を金鎚及び当て金を用いて手作業で行い、加飾の模様打ちにあっては金鎚又は鏨(たがね)を用い、切嵌(きりはめ)の図柄の切り落しには糸鋸を用いるなど手作業による数多くの古法を頑なに守り、鍛金技術を中心に1枚の板から、金鎚などで叩いて成形、銀盆や銀皿、銀杯などを黙々と作り続けます。
「足立ブランド」に参加した経緯は「当時、足立の伝統工芸で足立ブランドに認定されていたのは、2024年惜しくもお亡くなりになった生花用鋏を作る川澄 巌さん率いる国治刃物工芸製作所一社でした。同じ足立区伝統工芸振興会会員であった川澄さんに足立ブランドの話を聞き、ならば私もと思い手を挙げました」と語る坂巻氏。
「主力商品は一般販売ではなく、販売店に卸しているため、お客様とお話しする機会は少なく足立ブランドのギフト・ショーなどに参加することで、優れた伝統工芸や銀製品の素晴らしさ、その思いを来場者にお伝えしたり、消費者の皆さんとお話しできたことは良い思い出」と語ります。

▎数々のハレの場面で用いられる、光り輝く精緻な銀盆

坂巻氏にとっての思い出に残る大きな出来事を伺うと「先代と宮内庁で使用される銀食器を製作し、宮内庁に納め新宮殿落成晩餐会で採用されたことではないでしょうか。銀盆なら一枚の銀板からプレスで成形し、模様を作って貼り、模様の通りに切り落とし綺麗に磨いていきます。ひと言に尽くせば易きに感じるかもしれませんが、成形するのもガスバーナーで火入れし、何回も叩いて、また火入れしの繰り返し。

仕上げの際も対馬砥石で地金の傷、作業中の傷を取り、砥石目を桐炭でさらに細かくし、バフ研磨で鏡面仕上げにして完成させます。その滑らかさを出すことが私どもの評価されている点であり、こだわりでもあります。研ぎ作業は終わりが見えない深淵な作業で、どの工程も根気のいる仕事です」と話す坂巻氏。
こうした功績もあり銀製品、特に「銀盆」の名工として広くその名を知られるようになりました。その技術力の高さから、ゴルフ、バドミントン、サッカーや競馬などの優勝者に贈られる銀盆を数多く製作。各スポーツの授与式などでは、坂巻製作所製とは知らずとも勝者が頭上に、気品ある光を放つ銀盆を掲げる光景を一度は目にしたことがあると思います。



【銀盆の製作工程】

1)ふち・底の成形
一枚の銀板を、手動の機械でプレス成形する。
2)装飾作り
ふちの装飾模様を作るためのパーツを作成する。
3)装飾付け
バーナーを用いて、装飾のパーツを盆に取り付ける。
4)切り落とし
銀盆の余分な部分を糸のこぎりで切り落とす。
5)ヤスリ掛け
切り落とした部分を、装飾に沿ってヤスリを掛ける。
6)炭研ぎ
炭を用いて銀盆の面を研ぎ、細かな傷を取りなめらかにする。
▎“用の美”として生活に彩りを与える普段使いの銀製品
また、皇居の式典やスポーツの受賞式のみならず、普段の生活にも坂巻氏の銀製品は息づいています。
伝統的工芸品として伝統技法を用いた「用の美」を多くの方にご紹介するのも大きな役目。坂巻製作所では、日用品としてのおろし金や、「玉盃」とよばれるオリジナル酒器の制作にも取り組んでいます。

「玉盃は『純銀玉盃槌目(つちめ)』というのですが、お酒を入れると目の錯覚により特殊な珠玉が浮かび上がる仕掛けが施されています。これは光の反射が水面に集まってできる現象で、内側の勾配など、精緻な計算と確かな技術力が必要になります。

弊社の玉盃は、裏に金槌による鎚目(つちめ)模様をつけ、高さを低めにしてあります。高さが低いと、器の重心が下に来るので持ちやすいんです。足にあたる甲台にも模様を表しているのですが、表面が加飾により凸凹になるため器部分に接合するのに手間が掛かります。高級和食店をはじめ、父の日や、祝賀の記念に喜ばれている人気商品です」

賞杯としてこうした玉盃をはじめ、銀器が授与されることが多いのですが、昨今、地金の高騰などにより、銀器ではなく別の金属で代替品とされているケースも増えているそうです。
「確かに、銀に似せて作った盃は一見しては区別できないかもしれません。けれど真鍮やニッケルは貴金属ではありません。銀は地金にしても価値がありますが、ほかは潰したら金属としての価値は少なく、そこに賞杯の重みも少なからず追随するのではないでしょうか」と、控えめな物言いながら半世紀の間、その道を専心してきた銀師には、そこはかとないプライドが見え隠れします。
生活に密着した「用の美」を追求した商品といえば「銀製おろし金」も忘れることができません。「卓上で刺身のわさびや、冷奴の生姜などをおろす」という、いわば見せる(魅せる)銀のおろし金。

「卓上で玉盃とのバランスを考慮し、サイズや形を試行錯誤しました。使用中、すり傷が目立たないよう石目を打ち、目は鏨(たがね)でひと目ずつ起こしています。つや消しを全体に施し、使用後もクレンザーとたわしで済むように手入れも簡単にできるように工夫しています」。
高級な寿司店や和食店だけでなく、ご家庭でも銀製の盃やおろし金を使うことでワンランクアップのライフスタイルに豊かな彩りを添えます。
しかし、店頭で坂巻氏がお客様に説明をしていると「空気で酸化して黒くなってしまうため、管理が難しい」とおっしゃる方も少なくないといいます。それに対して坂巻さんはこう話します。

「実はこの変色こそが、銀の魅力のひとつでもあるのです。銀は使い込むと、つや消しをしたような黒っぽい色こそが、よく渋さや実力あるベテランへの比喩でも使われる『いぶし銀』です。
銀は、新品の華やかさから、渋く奥行きのある色合いへと変化するその過程を楽しむことができる素材。
熱伝導率も高く、例えば徳利ならば暖かいお燗にも、冷たい冷酒にもより早く暖かく、冷たくなり、美味しくいただけます。
銀から発せられる銀イオンも菌の繁殖を抑えるとされていますから衛生面でも優れているのではないでしょうか。お手入れ方法もシンプルですよ。アルミホイルを敷いた鍋に水を入れ、塩か重曹を入れて銀を煮込めば、新品のような輝きに戻ります。
使用頻度が高いほど変色が起こりにくい性質があるため、実は銀は日用品に適した素材なのです」

坂巻氏の手で丹精込めて創り上げられる銀器が、「あだち産業センター」の1階でご覧いただけます。2025年4月以降の新年度も、引き続き作品の展示が決まりました。北千住駅から徒歩7分、近くにお越しの際はぜひお気軽にお立ち寄りください。その美技をぜひ直接ご覧ください。
▎銀製品の良さ、引き継がれた伝統の技を次世代に伝えたい
坂巻氏のもうひとつのライフワークが、優れた伝統工芸の技術である鍛金の実技公開や、生徒への体験授業。足立の各小学校に赴き、子供たちに優れた技術を紹介する授業として、銀の指輪に槌目模様をつける体験などを行っています。
「コロナ禍以降は減りましたが、この活動を通じて、より多くの子供たちに銀の良さや魅力を発信していきたく、これからも精力的にこの活動したいと考えています」
小さい頃ご自身はこの仕事に就いていなかったら、どんなお仕事をしたかったでしょうか?という質問に少し考えた後、「私は、小さい頃から手先が器用だったんです。色々なことに興味があったんですね。この工房のオーディオスピーカーも私の手作りです。作業中はこれでクラシックやジャズを流しています。この前は、浅草の酉の市で写真を撮影してきました。毎年の恒例です」と言って引き延ばした数枚の写真を見せてくれました。多彩な趣味人の素顔を覗かせた孤高の銀師は、ひと時少年の面影に変わったのでした。

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企業情報
有限会社坂巻製作所
http://sakamaki-ag.com/
会社名:有限会社坂巻製作所
住 所:東京都足立区千住緑町三丁目8番21号
電話番号:03-3881-1341
代表者:坂巻 亨
事業内容:銀器制作
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取材など掲載情報に関するお問い合わせは、「足立ブランド」の運営事務局でもある産業経済部産業振興課ものづくり振興係でも受け付けております。
産業経済部産業振興課ものづくり振興係
電話番号:03-3880-5869
ファクス:03-3880-5605
足立ブランド公式Webサイト
https://adachi-brand.jp/