固定概念からの脱⽪。
今、ものづくりが楽しい
〝ものづくり〟への道のり
⾜⽴ブランドに挑戦することになった理由を教えてください。
⽊村:実は私、家業を継ぐまで〝⾜⽴ブランド〟という名前さえ知らなかったんです。というのも、うちは⾃動⾞をはじめ建設機械や農業機械、医療機器に使う⾦属フィルターなどを製造する会社。私⾃⾝、かつては家業に全く興味がなく、⽗は⽗で、職⼈気質というのか、外との繋がりをあまり持たない⼈だったので。⾜⽴ブランドを認識したのは、平成30年に区が主催する「あだち新製品開発講座」を受けてからのことです。
佐々⽊:私どもも同じように新製品開発講座が⼀つのきっかけです。現在は印刷業を中⼼としながら、プランニングや企画、販促⽀援などを幅広く⼿がけていますが、⾜⽴区さんとコミットするようになったのはここ10年くらいでしょうか。そのなかで⾜⽴ブランドを意識するようになりました。とはいえ……最初は悩みました。
⽊村:どうしてですか?
佐々⽊:商業印刷と〝ものづくり〟は少し⽅向性が違うんです。お客様の意向を受けて⽣産する、いわゆる受注産業ですから、正直なところ、⾜⽴ブランドとしてものづくりに取り組むことができるのかという迷いがありました。でも、講座のなかで社員たちから「名⼑紙切丸(かみきりまる:紙でできたペーパーナイフ)」など新しい発想が次々と⽣まれてきた。それを⾒て、ああ、これは受注⽣産だけのやり⽅から脱⽪するべきときなのかもかもしれない、と⾜⽴ブランドに挑戦することにしたんです。
⽊村:うちも精密機器を作る技術や⾃信はあるものの完成品としての〝ものづくり〟に対してはまったくの素⼈。これまでと違うことに挑戦したいと思いながらも、前に進めない状態でした。そんなとき参加した新製品開発講座でたくさんのことを学ばせていただきましたが、いちばん⼼に残っているのは⾃分に対し、「偉⼤なる素⼈」との⾔葉を先輩からいただいたこと。素⼈だからこそ枠にとらわれない考え⽅ができるんだよ、と。そこから私のものづくりに対する考え⽅ががらりと変わったんです。
本業を主軸にした新しいカタチ
今はどんなものづくりを?
⽊村:今は、⾃分の不満を参考にものづくりをしています(笑)。ものづくりには我がままが⼤事。⽣活の中で「もっとこうだったらいいのに」「こうすれば使いやすいのに」と思うことがよくあるんですね。だったら、⾃分で作ってしまえば いい!と気がついたんです。

佐々⽊:実際、どんな不満をお持ちで、どんなものを作られたんですか(笑)?
⽊村:⼀つは⾃⽴する茶漉しです。茶漉しってコロンと転がっちゃうじゃないですか。製品開発をしているお茶好きの専務がそれが嫌みたいで。それだけで⾃⽴して、しかも⼈前に出せるような綺麗な茶漉しがあったらいいなと思って⼀緒に作りました。また、うちは⾦属フィルター屋ですから、技術を⽣かした味噌濾し兼ストッカーも制作しています。⾷べたいときにすぐに好きな味噌で味噌汁が作れて、なおかつ空気に触れずにストックできます。これはわがままな家族がそれぞれ好きな味噌で味噌汁を楽しむためであり、忙しい朝の時短にもなります。
佐々⽊:いいですね。私どもは「紙の可能性、無限⼤。」をテーマに、さまざまなものづくりを⾏っています。

⽊村:とても素敵ですね!
佐々⽊:丸庄の本業はあくまでも「紙の印刷」。ですから「紙」を⼀本の柱にすることにはこだわっていきたいと思うんです。軸⾜がブレてしまっては本末転倒。会社の個性を損なうことにもなりかねませんから。
⽊村:おっしゃる通りだと思います。これまで培ってきた技術や素材、働く職⼈さんがいてこそ今があります。それをベースにした上で、⾃分たちには何ができるのかを考え、新しいものづくりにチャレンジすることが⼤切ですよね。
⾜⽴ブランドの強みは〝横のつながり〟
⾜⽴区ならではの地域性、また⾜⽴ブランドの良さはどこにあると思いますか。
佐々⽊:やはり⼈と⼈とのつながりが豊かなことでしょうか。江⼾時代から続く弊社から⾒ても、⾜⽴区はもともと⼈情と活気のある場所です。昨今、コミュニケーションが希薄になりつつあるといわれますが、この地域は区役所の⽅々も含めて共に⾜⽴区を盛り上げようとする思いと姿勢がある。とくに⾜⽴ブランドにはそんな地域性がよく表れていると思います。
⽊村:⾜⽴ブランドには〝横のつながり〟があるんです。同じ業界だけでなく、靴や鞄といったファッション系から畳屋さん、プラスチックメーカー、丸庄さんのような印刷業まで、異業種の⽅と交流ができる。つながることができるんです。アイデアの刺激を受けますし、互いに協⼒し合うこともできる。うちの会社ではこの部分はできないけど、あの会社に頼めばできる、と考えることができて、ものづくりの引き出しがどんどん増えていくんです。それがまた⾯⽩い。
佐々⽊:確かに。これまで印刷組合の仲間はいましたが、異業種の⽅との交流はありませんでしたから。それが印刷だけでなく、こうしてジャパンフィルターさんのような会社の⽅ともお知り合いになれるし……。ひょっとしたら、ここから何かが⽣まれるかもしれませんね。
⽊村:ぜひ、コラボしましょう! ⼀⾒、何のつながりもなさそうな紙と⾦属ですが、新しい製品が⽣まれるかもしれません。社内でも経営陣とよく話すのは「○○ありき」という考え⽅はもう⽌めよう、ということ。もっと柔軟に考えると新しい発想が⽣まれるし、断然楽しくなってきますよね。
未来を⾒据え、世界を広げる
最後に、これからの展望を教えてください。
佐々⽊:⾜⽴ブランドに参加して、これまで⾒えなかった世界が広がるようになってきました。これからも視野を広げ、固定概念に縛られることのないものづくりをしていきたいですね。
⽊村:ちょっとした満⾜感や幸せをもたらして、みなさまの⽣活や時間をより豊かに濾過するお⼿伝いができれば。フィルター屋だけに(笑)。そんなものづくりをしたいと思っています。
文 葛山あかね
編集協力 吉満明子(センジュ出版)
撮影 金子由
