次世(二世)事業者対談 安心堂 × 三幸

(株)安心堂,(有)三幸

先代の技術を受け継ぎ、これまでにない可能性を拓く

創業する⼈と継承する⼈

「安⼼堂」「三幸」といえば⾜⽴ブランドを代表する認定企業です。継承するにあたり、先代と次世代の違いをどう捉えていますか。

丸⼭:ゼロから⽣み出してきた⽗に対して、私にはもともとある地盤を受け継ぐという安⼼感があります。そこはやはり創業する⼈と継承する⼈の違いであって、先代のことは本当に尊敬しています。でも、だからこそのプレッシャーみたいなものもありますね。とくに弊社は⾜⽴ブランドの会⻑をずっと続けてきた⽗からの継承ということもあって、残さなければならない、守り続けなければならないという思いが強くあります。

⼩沢:僕の場合は先代がまだ現役なのでプレッシャーはないけれど、ジレンマはありますね。

丸⼭:どんな?

⼩沢:先代が作り上げてきたものは守りたい。守らなければいけないけれど、今、世の中が急激に変化するなかでどこまでそれに固執していいものか。新しいことにチャレンジしながらも、昔の技術をどう残して、広げていったらいいのかを常に考えてます。

丸⼭:確かに。先代の時代は技術⼒で注⽬される時代というか、職⼈技で戦うことができたけど、今はデジタル化が進んで便利な印刷機もたくさんあるし、それに先代の発想⼒や開発⼒は先代が⽣きてきた時代や環境のなかでこそ⽣まれたものだから、それを私たちが単純に引き継ごうと思っても違うのかなって。じゃあ、そうした中で⾃分には何ができるのかと、考えることは多いです。

先代の技に、新しい価値を⾒出す

そんなお⼆⼈が今取り組んでいること、挑戦しようと思っていることを教えてください。

⼩沢:僕が今思うのは、アクリルがただの素材として扱われてしまうのはもったいないということ。うちでは「東京アクリル」というブランドを展開してオリジナルのアクリル板を製造していま す。ホームセンターなどでは扱っていないような個性的で可愛いものが数千種類。たとえばアクリル板の間に和紙やラメを挟み込んだものや、マーブル模様に仕⽴てたものなど、素材⾃体がもうアート作品です。すべて職⼈の⼿仕事で作られていますから、その意味でも芸術品だと僕は思います。

丸⼭:三⾓や丸型に抜いてピアスの⾦具をつければ、それだけで素敵なアクセサリーになるよね。

⼩沢:そうなんです。ただの素材とするのではなく、そこにいかに新しい価値や可能性を⾒つけられるか、どう発信するのかが重要で、それこそが僕の使命なのかなと思います。

(株)安心堂 代表 丸⼭有⼦ 氏

丸⼭:私も⽗の跡を継ぐと決めたとき「印刷の価値ってなんだろう」ってすごく考えました。さんざん悩んだ末に辿り着いた⼀つの答えが「印刷という技術で⼈を喜ばせること」だったんです。きっかけは飲⾷店さんからの依頼。コロナ禍でお酒の販売許可が期間限定でおりたからすぐにオリジナルのボトルをつくりたい、と。時間はあまりなかったけど、みんなで頑張って何とか納期に間に合わせました。そのときすごく喜んでくれたんです。「ありがとう、助かった」って。それが本当に嬉しくて。そのとき思いました。受け取った⼈にとってそれは単なる物ではなく宝物になる、かけがえのないものになる。そこにこそ、うちの印刷の価値があることに気がついたんです。

⼩沢:その後に発売した「沿線グラス」はヒットしているもんね。⽜⽥駅から⽵ノ塚駅を結ぶ路線 が描かれていて⾯⽩いし、⾜⽴の住⼈としてはなんか嬉しい。⼀般の⼈はもちろん、⾜⽴の飲⾷店でよく使われているのを⾒かけますよ。

丸⼭:本当にありがたいこと。沿線グラスが⾜⽴の⼈々に愛される様⼦を⾒て「みんな⾜⽴が好きなんだ!」って私も嬉しくなりました。

選んでもらう理由をつくる

三幸さんは数年前にアクリルを販売するショップを開設、安⼼堂さんも事務所を改築し〝開かれた⼯房〟づくりをしています。

 

(有)三幸 代表 ⼩沢頼寿 氏

⼩沢:問屋機能が失われつつある今、⾃分たちで売らなければならないし、なおかつお客さんにうちを選んでもらう理由をどんどん作らないと、と思ったんです。世の中グローバル化して、商品がどこの誰のどんなプロセスで作っているか、というところまで分かるじゃないですか。値段だけなら海外製には勝てないけど、その部分を⾒て選んでくれる⼈がいるかもしれないし、そういう⼈をこそ⼤事にしたいなと。

丸⼭:うちは⼿動式⼩型パッド印刷機「なんでもくん」の研修や試作⼯場として場を提供するという意味もあるんですが、もう⼀つ⼤事な⽬的があって。それは近所の⼈たちにうちが何をしているのかを知ってもらうこと。⼯房をあえてガラス張りにしたのはそのためで、うちの取り組みを知ってもらい、地域の⽅々に応援されるような会社をつくりたいなと思っているんです。

⼩沢:僕らみたいな仕事は物だけでなく、⼈にファンをつけることがとても⼤切。そのためのチャレンジをしているという感じだよね。

⾜⽴ブランドを憧れの存在に

丸⼭:ファンをつけることは、⾜⽴ブランドを盛り上げることにもつながると思うんです。⼩沢君も含め⾜⽴ブランドのメンバーでよく話をするんですが、「⾏政がなにもしてくれない」というような話をする⼈がいますけど、そうじゃないよね、って。ここで商売をさせてもらって、それこそ⾜⽴ブランドに認定してもらっているからこそ展⽰会に出してもらったり、PRしてもらっているんだから、逆に⾃分たちは地域の⼈たちに何ができるのか、って考えながらやっていくことが⼤事なんじゃないかと思います。

⼩沢:もうそのまま、おっしゃる通り(笑)。僕ら⾃⾝が、会社⾃体がある程度、ニーズをつかんでしっかりとビジネスをやっていかないと、地域の雇⽤も⽣まれないし、税⾦だって納められない。⾃社がしっかりと稼いで体⼒のある経営をしていかないといけないなと。それこそ、⾏政の⽅から「三幸さんは⾯⽩いことをやっているからどんどん区役所に来て話を聞かせてよ」って⾔われるくらい、邁進していかないと、と感じますね。

丸⼭:そうね……いずれは憧れられるような存在になりたい(笑)。「うちも⾜⽴ブランドに⼊りたい!」って思われるような。そのためには⼩沢君が⾔ったように「あの会社すごいね」って⾔われるようにならないと。そのための努⼒を積み重ねることが必要だと思っています。

文 葛山あかね
編集協力 吉満明子(センジュ出版)
撮影 金子由

左:(有)三幸 代表 ⼩沢頼寿 氏 右:(株)安心堂 代表 丸⼭有⼦ 氏
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(株)安心堂 丸⼭有⼦

⽔と空気以外、形あるものなら何でも印刷できるパッド印刷でおなじみ「安⼼堂」の⼆代⽬。⾜⽴ブランド初代会⻑を⽗にもち、⾃⾝も若⼿メンバーの姉御的存在。継承後に作った「沿線グラス」は⼤ヒット。「コロナが落ち着いたらみんなで乾杯をしたい!」と笑う。⼩沢さんとは旧知の仲。

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(有)三幸 ⼩沢頼寿

アクリル板の製造から加⼯、製品づくりまでを⼿がける「三幸」の三代⽬。キックボクサーとしてプロのリングに⽴った経験あり。オリジナルブランド「東京アクリル」は世界中のクリエイターから注⽬を集める存在。「三幸」とは創業者の祖⽗・頼三と祖⺟・幸⼦の名からつけたもの。

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